NHK教育TV ETVスペシャル「小津安二郎静かなる反戦」を見る

eidostetsuro2003-12-28

詩人の吉増剛造さんと映画監督の吉田喜重さんとの対談。御二人の名前の通り剛く、重い内容でした。小津さんの映画は、「麦秋」「晩春」「東京物語」しか見たことないけど僕にはコメディベースと感じる部分あるから、小津さんにしてみれば、反戦という視点は戸惑うかもしれませんね。第二次世界大戦中の小津さんの戦地からのリポートが印象深い。

「僕はもう懐疑的なものは撮りたくない。何というか戦争に行って来て結局肯定的精神とでもいったものを持つようになった」
「そこに存在するものは、それはそれでよしと腹の底で叫びたい気持ちだ」

小津さんの映画の、誰の視線でもないローアングルの意識や感情の局在しない世界観は、「そこに存在するものは、それはそれでよし」の精神から生まれたのだろうか?
決して交わる事の無い他者の心ではあるが、小津さんの映画の同じ事の繰り返しの映像の誰の物でもない局在しない視線が、ある時、ふと見上げた空の光景に、心が転移してしまうような「瞬間」がある。おそらく小津さんはその一瞬に全てを賭けたに違いない。「麦秋」を始めて観た時の、感動は今も忘れない。

おそらく、ヴィム・ヴェンダースは、小津映画に強い影響受けて、その「瞬間」の表現を求めて、さ迷っているとしか思えない部分がある。
「パリテキサス」のハーフミラー越しの再会のシーン、「ベルリン天使の詩」の中年天使とダンサーが交歓するシーン等々、決して交わらないもの同士を結合させようと、徒労としか思えないアクションしている。
小津的方法以外でその「瞬間」を作ることは、恐ろしく困難な作業に違いない。